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絵本作家・いしかわこうじ エッセイ

都会で子育てするのも楽しいね

これは、2004年に「保育の友」 誌(全国社会福祉協議会 刊)に3回にわたって連載しましたエッセイの第一回です。

 僕は表参道にある自宅兼アトリエで、広告や雑誌などのイラストレーションを描く仕事をしています。妻もWEBデザインの仕事で会社勤めをしており、夫婦共に働いております。
 そんな訳で、僕の4歳の息子は毎日、保育園にお世話になっています。原宿という土地柄でしょうか、ここの保育園児のご両親のご職業は実に多彩です。テレビ関係、ファッション関係、建築家、ライター、デザイナー、美容院関係などなど。いわゆるカタカナ職業のオンパレードで、ここでは普通の会社に勤める サラリーマンという人のほうが少数派かな?というちょっと不思議な雰囲気です。
 保育園には僕も時々、送り迎えをすることがあるのですが、ドレッドヘアーや弁髪のお父さんが子どものお迎えに来ていたりしていて、なかなかに刺激的です。父母会に行ってみると、クリエイティブに楽しんで生きている方が多くて、いろんな業界のお話も聞けたりして楽しいです。またここでは、積極的に保育参加されているお父さんが多いように感じます。育児を“お母さんにまかせきり”ではなく、夫婦ともにお互いの仕事を認めあい、協力しあっているんですね。バブルの時代には、都心の過疎化がよく話題 になりましたが、どっこい子育てしながらがんばっている人たちもけっこう多いんだなあ、ということが保育園に行ってみて分かりました。また、保育園の先生方に本当によく子どもたちの面倒を見ていただき、親が安心して働ける環境を作っていただけていることに感謝しています。
 ところで、子どもは豊かな自然の中でのびのびと育てるのが一番、という話を よく聞きます。確かにこの説には一理ありますが、都会で育つ子どもというのも案外いいかな、と僕は思っています。例えば、僕たちの住んでいる街には、歩ける範囲に大きな公園や児童会館などの公共施設、多彩な商業施設が集まっていますし、電車を使えばいろんな所にすぐに行けます。ちなみに我が家では現在、車を持っていません。これには、駐車場の料金が高い!という都会のトホホな事情が一因でもあるのですが、「歩く」生活を大切にしたい、と僕たちが思っているからでもあります。海辺や野山を散歩するといろんな発見があるように、街も毎日歩いていると、実にさまざまな発見があります。ガーデニングをしているお宅の庭先で綺麗な花が咲いているのを見つけたり、細い裏道でかわいい猫ちゃんに出会ったり、表参道の大きなケヤキ並木の葉っぱの色合いで季節の移り変わりを感じたり、新しくできたお店を見つけて入ってみたり…。小さな息子を連れて歩いていると自然と目線も低くなって、今まで気づかなかったいろんなものが、色鮮やかにクリアーに見えてくる気がします。
 また、都会には実に様々な活気ある人たちが集まってきて、ある種の祝祭的な雰囲気が毎日そこにあります。都会は味気ないコンクリートジャングルさ、なんて昔からよく言われますが、街という「森」も住んでみればけっこう楽しくて便利で暮らしやすい、ということに気づきます。そして、公園に散歩に出かけるようにしたり、自然が豊かに溢れる場所に旅行したりすることで、都会で暮らすことの弱点もずいぶん補えると思うのです。都市と自然、その両方が人間には大切なんだ、と僕は思うのです。

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