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絵本作家・いしかわこうじ エッセイ

写真を撮ることの本当の楽しさがわかった気がする!(2002/9)

これは、「写真の生活」というメールマガジンに寄稿した「100ぴきのいぬがかえる本」に関する文章です。この本を作る過程で考えたことやおもしろかったことなどを書きました。

 みなさん、こんにちは。デジタルイラストレーターの石川浩二です。僕は日頃、犬や猫、人などのキャラクターを生かしたデジタルイラストレーションで広告や雑誌、Webなどの仕事をしています。さて先日、僕は1册の本を出版いたしました。「100ぴきのいぬがかえる本」(いしかわこうじ 著 学習研究社 刊 定価1400円+税)というタイトルで、僕が創作した紙の犬(ペーパーわんこ)を世界のいろんな街で撮影したのどかな写真と、ハサミに切れば実際に組み立てられるペーパーわんこの展開図をまとめた、新感覚の工作絵本です。
 新聞やTV、雑誌、Webなど多くのメディアで本を紹介していただけたこともあって、おかげさまで売れ行きも好調で、先日増刷となりました。ありがとうございます。売り切れの書店も多かったのですが、現在はアマゾンなどのネット書店でも手に入りやすくなっています。ここでは、「100ぴきのいぬがかえる本」の発想から完成までを簡単に書いてみようと思います。
 3年ほど前、僕がふだん描いているイヌの絵を立体化してみたいなーと、いらない紙をチョキチョキ切って組み立ててみたのが、この本に登場する「ペーパーわんこ」誕生のきっかけでした。アトリエに試作品をいくつか置いておいたら、打ち合わせにいらした方や友人が、おもしろいから本にしたら?なんて言っていただいて、それからずいぶんたくさんの犬を作りました。コーギーやダックスフンド、柴犬みたいに、ちょっとリアルなわんこもいますが、表紙に登場する「ジェリー」や「夢色のイヌ」など実際にはいない不思議な色あいのわんこもいます。「ペーパーわんこ」は立体の絵であり、紙でできた小さな彫刻でもあります。遠く離れた読者のみなさんに、「ペーパーわんこ」を作って飼ってもらいたい、というのがこの本のひとつの大きなコンセプトです。  本に掲載した多くの写真は、僕自身がデジタルカメラで撮影をしています。北イタリア、パリ、ブリュッセル、香港、ハワイなどを旅しながら、ペーパーわんこを街角に置いて撮影するのは、とても楽しい経験でした。体長15センチ、高さ5センチくらいの小さなわんこが主役なので、カメラはほとんど地面に置いての撮影になります。ローアングルという犬の視点で見た風景はとても新鮮に感じます。いろんな人にジロジロ見られたりもするけど、この写真は今日この場所でしか撮れないと思うから、大晦日の極寒のパリでも夢中で撮影しました。がんばったかいあって、いい写真がたくさんとれました。実際、本に掲載できなかった写真も多いのです。  写真を撮ることは、絵を描くのと違って偶然の連続です。絵だったら画面の隅々まで自分で計画して描けますが(逆にいうと意図以上の絵ができる場合は少ない)、写真では、季節や太陽の光の状態、街の人の動きなど、予測のつかないところがすごく多いんです。でもそれがおもしろい。偶然を味方につけることで、いい写真が撮れることもある。写真を撮ることの本当の楽しさを、今回の本づくりで初めてわかった気がします。たくさんシャッターを切っていると、紙でできているはずのイヌがそこに生活しているように見える、瑞々しい写真が撮れることがあって、そんな時の喜びはひとしおです。そして、撮った写真をその場ですぐに確認できる、っていうのはデジタルカメラの大きな利点ですね。  ペーパーわんこの制作には、G4 MacとWACOMの大型ペンタブレット intuos 1800-i、PainterとPhotoshop、Illustratorを使いました。撮影にはミノルタのDIMAGE7とニコンのCOOLPIX950を使いました。 こうしたデジタル機材を駆使して作った「ペーパーわんこ」ですが、ご覧のようにとっても暖かくて楽しい本に仕上がったと思います。いつも、デジタルを駆使することでよりアナログな感覚に溢れた作品を創りたい、と考えている僕にとって、満足いく出来になりました。本の制作に協力していただいた多くの方々に、ここであらためてお礼申し上げたいと思います。  この本は、絵本であり、写真集であり、工作キットでもあります。本をめくりながら写真を眺めたり文を読んだりして、旅のわくわく感やなごみ感を楽しんでいただいてもいいですし、展開図を切り抜いて作れば、自分だけのペーパーわんこをパソコンのモニターや机の上で飼うこともできます(ペーパーわんこのパーツは5こくらいなので、あっという間にできあがります。)。人それぞれいろんな楽しみかたをしてもらえたらと思います。皆さん、ぜひ「100ぴきのいぬがかえる本」を見て作って楽しんでくださいね。

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