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絵本作家・いしかわ こうじ エッセイ

子どものように夢中になって楽しむ

これは、2004年に「保育の友」 誌(全国社会福祉協議会 刊)に3回にわたって連載しましたエッセイの第2回です。

僕はいつも、仕事としているイラストレーションを、趣味の延長みたいな気分で楽しみながら描いています。これは、不真面目にやっているとか適当にやっているとかでは、もちろんありません。自分がどれだけ楽しんだか?ということが作品の仕上がりを大きく左右する、ということが、この仕事を十数年間やってみての実感なのです。例えば、一本の線を描く場合でも、のびのび描いたのか、自信なく描いたのか、淡々と描いたのか、なんていうことが、見る人には不思議と伝わるものです。「子どものように夢中になって楽しむこと」、これが生き生きした作品を創るのに一番大切だと思うのです。そして、自分が楽しんだ感覚を、絵を見る人にもリアルに感じてもらえたらいいな、と思います。
 ここ数年は、僕はイラストレーションの他に、「ペーパーわんこ」という紙工作でできた小さな犬を作るアートに取り組んでいます。自分が絵のモチーフとして描いている犬を立体にしてみよう、と思ったのが作りはじめたきっかけな のですが、おもしろいので調子に乗っていろんな犬を作りました。そして、もともと旅行好きな僕は、旅の相棒としてこの犬達をヨーロッパ、アジア、ハワイ、エジプトなど様々な国に連れて行き、写真に撮ってきました。うまく撮れた時は、 ぺらぺらの紙で出来ているはずの犬が、そこで暮らしているように見えてきて、そんな時の喜びはひとしおです。
 自分の幼年時代の記憶をたどってみると、「ペーパーわんこ」を作る原点ともいうべきものが、僕のこども時代にあることに気がつきました。僕はお絵描きや工作、折り紙なんかが大好きな子どもでした。幼稚園の時に帆船の模型を絵に描いたことがあるのですが、帆柱や綱などを細かく描いて「すごく上手に描けたなあ!」と密かに自画自賛した記憶があります(大人になってからその絵がひょっこり出てきて、思っていたよりずっとヘタクソでがっかりしたのですが…)。今でも子どもの頃の絵を見返すと、描きながら考えていたことや、 工夫した所なんかを鮮明に思い出します。そしてそれは、今僕がイラストレーション を描く時に考えたり工夫したりするのと、心の動きという点で驚くほど変わらないことに気づきます。
 幼稚園で時々くれた、紙をハサミで切り抜いて作る動物のキットも大好きで、ゾウやライオン、シマウマなどいろんな動物を作るのが、本当に楽しみでした。今思えば、これなどはまさにペーパーわんこの原点だなあと思います。知らず知らずのうちに、子どもの頃熱中したものが、自分の財産になっているんですね。
 今、僕がこんな風に、自分の大好きな絵や工作で仕事ができているのも、子ども時代 に僕を褒めてくれたりおだてたり、励ましてくれた両親や先生たちのおかげなんだと思います。これからも、楽しみながら新しい表現の世界を切り開いていけたらと思います。
 「ペーパーわんこ」の作品は、多くの方たちのご助力で「100ぴきのいぬがかえる本」(学習研究社)、「ペーパーわんこのいるくらし」(講談社)という 2冊のちょっとユニークな工作絵本にまとめることができました。ライフワークの一つとして長く続けていきたいと思っています。

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